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東京高等裁判所 昭和51年(ツ)107号 判決

上告人 竹越義晴

右訴訟代理人弁護士 古屋福丘

被上告人 岩間倶義

右訴訟代理人弁護士 帯野喜一郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人古屋福丘の上告理由第一点について

原審が、本件売買契約をなすにつき被上告人に動機の錯誤があったため無効であると判断したことは、その挙示する証拠に照らして正当として是認することができ、その判断過程に所論の違法はない。論旨はひっきょう原審の専権に属する証拠の取捨判断及び事実認定を非難するものであって採用できない。論旨は理由がない。

同第二点について

原審における審理の当初、第一審における口頭弁論の結果を陳述するに当り、当事者双方は第一審判決事実摘示のとおりこれを陳述したものであって第一審における口頭弁論調書記載のとおりこれを陳述したものでないことは、原審における第一回口頭弁論調書の記載に照らして明らかである。そして、このように第一審判決事実摘示のとおり第一審における口頭弁論の結果を陳述した場合において、もし第一審判決に摘示された事実が第一審における当事者の主張と異なるときは、当事者は進んで右判決の事実を訂正するように申出るべきであり、何らの申出をしないで第一審判決事実摘示のとおり第一審における口頭弁論の結果を陳述したときには、右陳述の趣旨に鑑みてその主張を右判決事実摘示のとおりに変更したものと解するのが相当である。これを本件についてみると、原審において第一審における口頭弁論の結果を陳述するに当り、上告人が第一審判決の事実摘示を訂正するように申出た事実のないことは、原審における口頭弁論調書の記載に照らして明らかであるから、仮に上告人の第一審における主張中に時効期間を二〇年とする取得時効の主張の趣旨が含まれていたとしても、これによって第一審判決事実摘示のとおりに時効期間を一〇年とする取得時効のみを主張し、時効期間を二〇年とする取得時効の主張はこれをしないことに変更したものと解すべきである。したがって、原審が時効期間を二〇年とする取得時効について判断しなかったからといって判断を遺脱したものとはいえない。

のみならず、もともと取得時効を援用すると否とはこれによって利益を得る者が自らの意思に基づいて決すべき事柄であって、当事者が取得時効を援用しない場合には、裁判所が進んで援用の有無を釈明すべき義務はないと解するのが相当である(最高裁昭和三〇年(オ)第六八八号、同三一年一二月二八日第二小法廷判決、民集一〇巻一二号一六三九頁参照)。したがって、仮に本件において時効期間を二〇年とする取得時効の要件が具備しているとしても、原審が上告人に対して右援用の有無を確かめなかったことをもって釈明権不行使ないし審理不尽の違法があるとはいえない。論旨は理由がない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 兼子徹夫 太田豊)

〈以下省略〉

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